一度見たら忘れることのできない、隈取りのラベルが印象的な「百十郎(ひゃくじゅうろう)」。これは明治から昭和にかけて活躍した地元の歌舞伎役者・市川百十郎に由来する。彼が境川に植えた1200本もの桜の木はのちに「百十郎桜」と呼ばれ、多くの人の心を癒している。その桜と同様に、日本酒を通じて多くの人の縁を繋げたいと命名された。平成19年5代目として社長に就任した林里榮子さんがめざすのは、「女性らしい、強く凛とした酒」。シャープな味わいを出すために、造りや加熱処理など製造工程に工夫を凝らした。ネーミングもユニークで、黒面(くろづら)、赤面、白炎、青波、南の風、日和とどの季節商品なのかわかりやすくし、基本のイラストは変えず色で区別できるようにした。 「伝統が廃れることはないのは、時代とともに変わり続けるからだ」という想いがラベルの紋様などからも感じられる。なかでも「純米吟醸G-mid」は、オール岐阜産を謳っており、米は岐阜ハツシモ、酵母は岐阜Gを使う。樹木のような爽やかな香りと酸が調和する辛口の酒は、洋食和食問わず脂のあるしっかりとした料理によく合う。地元を大切にしながらも、全国に発信していくこれからの蔵の姿を現しているようだ。(関 友美)