酒蔵は埼玉県の中央部、水田に囲まれた田園地帯に建つ。創業は明治7年(1874年)、南部杜氏の後を受けて現在5代目の蔵元となる清水富也蔵元が夫婦で醸す、手造りを旨とする小さな酒蔵である。蔵元には何度か試飲会でお会いしたことがあるが、いつも夫婦でブースに立ち丁寧に説明して下さったことが印象に残っている。 お2人のほのぼのとした雰囲気が、そのまま酒質にも表れてくるといえるだろうか。無濾過特有の濃厚な酒質が多いのだが、強くアタックしてくるような感触ではなく、米の甘みに誘われるまま包み込んでくれるような、優しくふくよかな飲み口に一貫した特徴を感じる。銘柄は家紋の紋様からとられているが、「花菱」と大書した堂々とした髭文字のラベルが目をひく。「山田錦」「美山錦」のほか、埼玉県が開発した酒造好適米「さけ武蔵」を用いた酒もあり、米品種の飲み比べが愉しめる。(松崎晴雄)